| ::手放せない恋だった ※水石ですけど水はナギさんと付き合っているという設定でお願いします。 ※(酷いミクリを目指したけど全然酷くならなかった…) ありがとうと口にしたらそこで全てが終わってしまう、そんな気がした夜だった。 窓から射し込む月明かりが、彼の男にしては白すぎる首筋を、ぼんやりと冷たく照らし出している。 (ああ、折れそうだ) 少し力を入れれば折れそうな首だ、とダイゴは思った。うなじが綺麗だなぁと思いつつ、うなじが綺麗な男ってどうなんだよ、と心の中で付け加える。 夜半に訪ねた目の前の男は、こちらがそんなことを思っているとは夢にも思っていないのだろう。その証拠に、無防備なほどこちらに背中を晒している。いや、預けているのか。 この男のそんな姿を見て、ダイゴは詰めていた息をゆっくりと吐き出した。首筋から背中に沿ったしなやかなラインが好きで、昔から隙あらば彼の背中を眺めていたことを思い出す。そうすると顔に自信のある彼は、いつも「背中ばかり見てないで、私の顔を見たらどうですか」と言っていた。懐かしい日々。 懐かしい、遠い日々。 「……あなたは、いつまでそうやっているつもりですか」 ふいに、今まで背中を向けていた男が声をあげた。夜の静けさの中、それはぽつりと響いた。 「なんだ、起きてたのか」 「そんなに見られていたら嫌でも起きますよ。大体あなた、気配を消していなかったでしょう」 影が動く。高級そうな机にうつぶせに寝ていた身体がむくりと起き上がった。 「声を掛けるタイミングをね、見計らっていたんだ。それにしてもそんなところで寝ていたら風邪を引くよ」 「そう思うなら起こしてください」 「嫌だよそんなミクリがおとなしく寝ているのに勿体無い」 「……どういう意味ですか、それ」 軽口の応酬をして、まるで昔に戻ったみたいだ、と笑った。今みたいに役職だとか役目だとかに縛られず、まだお互いの距離が近かったあの頃。 懐かしいねと口にすればそうですね、と言葉が返ってきた。どうやら考えていることはむこうも同じらしい。 「本当に、懐かしい」 惜しむような声に気がついたのだろう。「そんなにしみじみと振り返るほどのものではありませんよ」と彼が笑った。振り返るほどのものなんだ、とダイゴは思った。 「今日は、君に、」 伝えたいことが、あって。と一言一言区切りながら言葉を落とした。彼は苦笑しながら、 「『ありがとう』と『さようなら』以外の言葉なら聞きますよ」 と言った。 「……何、それ」 「似ていると思いませんか?この二つ」 そう言って此方に視線を合わす。彼の目が笑っていないことに気がついて、ダイゴは顔を歪ませた。つい先程まで、無防備に晒されていた首筋を思い出す。 あの時、手折ってしまえばよかった。そうすれば、 「君は、ずるい」 「ええ、そうでしょうね」 でもそんな私が好きなんでしょう?と笑った彼に自惚れるな、と言うと「そうですね、私もそんなあなたが好きですよ」と彼はまた笑った。底を感じさせない笑みだった。 彼女はこんな彼を知らないのだろう。こんな彼の笑みを見たことはないのだろう。そんな歪んだ、ほんの少しの優越感に、そしてそれを嬉しいと感じてしまっている自分に泣きそうになりながら、 (戻れるものなら戻りたい) それでもいいと思ってしまっている自分を、いっそ殺してしまいたいとダイゴは思った。 ああ、馬鹿みたいだ。(それでもまだ好きだなんて) ................................................................................................................................................ 2007/09/16 ミクダイ |
2005/12/06 ミクリ