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祇園祭りが終わったら、暑うなりますなぁ。え? 語れ、お言いやすなら、語りまひょか。ええ、よう知ってます。
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あ、うちは、売れっ妓の夢有沙(むうさと読んどくれやす)どす。自慢やないけど、唄や踊りはもちろん、九つの芸事に達者どすえ。・・おほほほ・・・。
都絽伊屋はんのことどすやろ?
ほんに、気の毒なことどしたなあ。ご維新前からの老舗で、旦那の入江不動はんいうたら、ちょっとは知られた文化人どす。高尚な趣味のええお人どしたんえ。へえ、お店の方は、ご長男が継いではって、入江北斗はん。優秀なお方どす。
次男さんが、今度問題起こしはった晶さん。うちらの間では、パリスはんで通ってましたな。パリに留学して、デザイン修行してきはったとか。遊びがお上手やから、別の修行にもご熱心やったんとちゃいますか?格好ようて、姿がすっとしてはるから、「パリっとして、すっとしてはる」パリスはん。ほほほ・・・。
パリスの審判
ことの起こりは、このパリスはんが、軽薄な週刊誌「エリス」に乗せられたんどすな。「古都の美人」特集で、べっぴん芸妓で有名な由乃吉ねえさん、高級クラブアフロの日比野奈津世さんを取り上げたんどす。この2人だけでは、素人受けせえへんとかで、西都大学の講師で、テレビにもよう出てはる安手野峰子さんを加えて、誰が一番の美人か・・。それを、ここらでは「格好いい男ナンバーワン」のパリスはんを、審判者にしよういう企画どした。
これにパリスはんも悪乗りして、飯田山の高原ホテルで、テレビのインタヴューしはったんどす。この地方名産の林檎を手にとり「最も美しい人に、これをさしあげたい」なんて、まあ、キザが絵になるお人どすからなあ。これがまた、軽薄な女性ファンを増やしたそうどすえ。
3人の綺麗どころも、表向き謙遜してましたけど、陰では、どなたも猛烈に運動しはったんどす。やっぱり2番や3番やったら、満足しまへんやろ。
芸妓の名誉にかけて由乃吉ねえさんは、パリスはんをお座敷に招待して「もし選んでくれはったら、ええ仕事回すようにしますえ。」と色っぽくお酌しはったんどす。内緒やけど、由乃吉ねえさん、政財界に顔がきくんどすえ。実は「御前」が、旦那やて・・。え? 「御前」どすか? 噂では、政界の影の・・・おほほ、言えまへん。危ない、危ない。
大学講師の安手野先生は、御自分の出てはるテレビの文化番組に出して、老舗の若手重役という立場で、顔を売ってあげるという提案をなさったそうどす。あのお人、マスコミ関係には、顔がきくんどす。
アフロの日比野奈津世さんは、「若い美人をたくさん紹介するわ。よりどりみどりよ。」って、まあ、この人が一番わかりやすうて、単純どすな。
パリスはんご自身は、仕事や売名にはあんまり興味のないお人で、「楽しく遊べるのが一番や。商売は兄さんがやってるし、文化人のマネなんか、僕には肩が凝るわ。」と、アフロのママを「古都の美人ナンバーワン」に選んだんどす。
ほかの二人どすか? そら、面白うない。それに、女の恨みは怖いんどすえ〜。
うるわしのヘレねーちゃん
「ママの紹介してくれる女の子、確かに美人やけど、やっぱりママが一番綺麗やな。今度は、ママに似た素人の娘がええわ。」とパリスはんは、だんだんあつかましゅうなりはって、奈津世さん、ちょっと困って、お茶を濁してはったそうどす。
パリスはん、古い色町のお茶屋遊びも、お父さんについて子供の頃から知ってはりますし、フランスでも、いろんな遊びを覚えはったみたいやし、玄人の女ごには飽きてきたんどすな。
お兄さんの入江北斗さんの秘書で、藍野泰雄いう人がおいやすが、入江家とは遠縁のこのお人が、実は、アフロのママの若いときに産みはった隠し子なんどす。パリスはんは、この人に「誰か親戚に、アフロのママに似た綺麗な娘おらへんかなあ?」と聞きはったんどす。藍野さんは真面目な人どすから、ママの年の離れた妹が、ミナミにいて、よく似ていると教えたんどすな。
俄然興味を持ったパリスはんは、無理矢理、藍野さんをミナミの焼肉屋に案内させて、そこでアルバイトをしていた、ママの妹を見初めはったんどす。そら、綺麗な人どす。焼肉屋どしたから「ヘレねえちゃん」なんて下品なあだ名が付いてましたけど。
スパルタンとミケネコ興産
パリスはん、一目ぼれで、あっという間に、このべっぴんさんを口説き落として、お店からそのまま、強引に連れて帰ったのにはあきれましたえ。しかも、このべっぴんさん、亭主持ちなんどす。焼肉屋のとなりでスポーツジム「スパルタン」やってはる元プロ野球選手の目根良治さん。そらあ、怒りはった。
目根良さん、実の兄さんの赤亀無門さんのとこ飛び込んで行って
「嫁はん。男と逃げよってん! どないしてこましたろ!」
赤亀さんいうのは、ミケネコ興産いう名前で、パチンコやらゲームセンターのチェーン店をしてはるんどす。シンボルマークは、巨大な黄金のミケネコで、お金とお客を招くと言う左右の手をあげた猫が向かい合うてます。苗字が違うのは、弟さんが母方の実家目根良家をついではるからやそうどす。
「男て、何もんや! テレビにも出とったにやけた奴? 老舗の若手重役? なめとんのか! ばーんと殴ったらんかい! いや、まて、なんぞ手があるやもしれん。うちの弁護士に相談して、がっぽり金取ったろやないか。」赤亀はんというのは、さすが商売人どす。ただのこわもてなだけやおへんのどすなあ。
弁護士織田誠也
赤亀はんの顧問の織田誠也いう弁護士さんは、井高法律事務所いう小さい事務所やってはるんやけど、なんや、ちょっと危ない、法律すれすれのこともしはるらしい。
「わしの可愛い弟が顔つぶされたんや! 男は、ぼこぼこにいてもうたるが、それだけやのうて、店もつぶしたりたい! 古都の老舗かなんか知らんけど、商売でけんようにしてやる!」赤亀さん、激昂して大声で怒鳴りはるけど、ほんまは冷静なんどす。織田弁護士も、そんなことようわかってはるから、
「まあまあ。嫁さん返せやとか、慰謝料出せとか、声を大にして言うたら、弟はんもっと顔つぶれまっせ。元プロと人気実業家の醜聞は、マスコミのええカモですからな。」
「ふんっ! そやからここ来とるんや。相手の男ぼこぼこにするだけやったら、知り合いの若いもんに電話するだけで十分や。」これを聞いて織田弁護士、にこっと笑いはって、
「私は、法にふれるようなことは勧めまへんなあ。」
由乃吉ねえさんの陰謀
話はかわりますんどすけど、由乃吉ねえさんの朋輩で、多田澄子はんいうひとがいはるんどす。今は、ほれ、源氏物語でも有名な風光明媚な海岸で、料亭「村雨」の女将してはるんどすが、舞妓の頃は、ほんにあでやかで、「御前」もちょっと目をつけ・・・いや、ほほ・・まあ、それほどのお人やったんどす。この人が、「御前」のところにきやはったんどすな。
「うちの息子が、敏馬通り(みるめどおり)で、工務店してますねんけど、ちょっと相談が・・」
「ああ、秋れう介な。大きなったやろな。」
「亮介どす。お義父はんが、旧仮名遣いで戸籍にのせてしもうたから・・」澄子さん、息子さんが、赤亀さんの仕事で、ずるいことされたいうて、怒ってはるんで、なんとかならんやろか、いう話どす。
それを聞きかじった由乃吉ねえさんが、邪魔したろ・・て。へえ、由乃吉ねえさん、今でも多田澄子さんには焼いたはるから・・。そこで話がややこしいなったんどす。詳しいことは知りまへんけど、由乃吉ねえさんが、赤亀さんと顔つなぎして、都絽伊屋のパリスはんと、スパルタンの事情も知りはったらしい。
多田澄子さんの話はどっかいってしもうて、2人でもりあがりましたんどす。
「あの憎らしい都絽伊屋を困らしたろうやおへんか。」
「ねえさんみたいな別嬪に恥かかすやなんて、その若造、許せまへんで。なんぞ、ごつい損するよう手ェまわしたりまひょ。」
まあ、恐ろしい計画ができたんどす。あの織田いう弁護士さんが計画したいう噂やけど、弁護士いうたら法律を守るひとやさかい、そんなことはしまへんわな。
パリスはんは、駆け落ちして大満足で、郊外のリゾートホテルやら、市内の古い伝統旅館などを渡り歩いて、気楽に遊んではりました。赤亀さんの声のかかった若い人、いえ、ちょっとコワいお人なんかが、都絽伊屋に押しかけたり、嫌がらせをしたりしたらしいんどすけど、社長の入江北斗さんは、毅然としてはって、そういう脅しのきくお人やないんどす。県警の本部にも顔がきくし、かえって、赤亀さんが不利になるような場合もあったらしいんどす。
当然やけど、北斗さんは、パリスはんのこと、ものすごう怒ってはりました。でも、お父さんの入江不動さんは、パリスはんに甘うて、「ええやないか。本気で惚れた女ごに命かけるいうのは、男の本懐や。」
「命かけてんのは、晶やないですよ!」
まあ、しょうもない弟持った北斗さんの気持ちわかりますなあ。でも、赤亀さんは裏では、もっと大きなワナを用意してはったんどす。
赤亀無門の罠
スキャンダルを恐れて、スパルタンの目根良さんは、じっとガマンしてはりました。それで、パリスはんは益々調子に乗って赤亀さんの店なんかにも顔出すようになってはりました。この人の遊びいうのは、ちょっと危険な匂いのするのが好きなんどすな。勿論、賭け事も大好きで、ラスベガスやマカオでも儲けたいうて聞いてますけど、モグリの賭場にまで出入りするようになりはったんどす。
詳しいことは知りまへんけど、赤亀さんの地元で、大儲けさせられて、深みにはまって、自分名義の不動産やら、持ち株なんかも取り上げられてすってんてん。普通は、ここで気が付いてやめるもんやけど、パリスはん、意地になって(なんせ、相手が目根良さんやったらしいんどす。女房に逃げられた男にバカにされてたまるか・・いう、わけのわからん男のプライドどすかな)、都絽伊屋の手形帳なんかも持ち出す始末。
ここまで、きたら、もうあきまへん。怖い取立て屋に追いかけられて、身の危険を感じるまでになってから、お兄さんに泣きついたんどす。話を聞いて、北斗さん、ほんまに怒りはったけど、ここでもお父さんの不動さんが「若気の至りや。堪忍したって。」と庇いはったらしい。
でも、あちこちで、不都合が出てきて、不審な手形回収やら、訴訟やらで足元に火ィついてきたんどす。北斗さんも、こうなっては、店をなんとか守らんならん。いろんな方面に手をまわして、夜も寝んと、ものすごう忙しうしてはったんどす。
この間に「御前」にも話を通しはったのは言うまでもないことどす。御前は、都絽伊屋贔屓どしたから。
「赤亀もえぐいことするな。でも、あいつもスネに傷持つ身やからな・・。わしにも考えがあるわ。」
秋れう介の怒り
「御前」てどういうおひとやいうんどすか? さあ、よう知りまへん・・・ほほほ・・・。
まあ、ミケネコ興産も、なんや工事代金の踏み倒しや、不正な賭博なんかで疑いをうけたり、自分とこが危のうなってきたから、一旦はおとなしなったんどす。
そやけど、今度は、目根良さんが、マスコミに奥さんの駆け落ちを公表しはったんどすな。そら、ものすごう反響がありましたえ。ワイドショーなんかもええネタですわな。「エリス」の三美人企画も、面白かったけど、今度は後日談の醜聞ですやろ?
ほんまの仕掛け人は、由乃吉ねえさんと安手野先生どす。え? 織田弁護士さん? まさかそんなこと計画しはらんやろ? でも、安手野先生と織田弁護士は、大学の同級生どすけどな。
そんなこんなで、大混乱の都絽伊屋に、決定的な不運が起こります。社長の北斗さんが事故にあわはったんどす。
まあ、これも因縁話みたいなんどす。
はじめは、無免許の若い子が、夜間にジグザグ走行やってて、北斗さんの車に当たりそうになって、頭にきた北斗さんが、警察にナンバーを通報したんどす。で、その車がパトカーに追いかけられて事故して、運転してた子が死んだんどす。
その死んだ男の子が実は、偶然やけど、秋れう介さんの友達やった。へえ、多田澄子さんの息子さん。特に目かけて可愛がって工務店でアルバイトさせてた若い子やそうで、事故の事情を知って、秋れう介さん、ものすごう悲しんで、警察と北斗さんを恨みはったんどす。
思いつめた若い人ほど怖いもんはおへん。秋れう介さん、逮捕なんか覚悟で、工務店のトラック乗って、北斗さんの車にぶつかりはったんどす。北斗さんは乗用車ごとまきこまれて100メートルくらい引きずられて、車は大破、ご本人は、生きてはるのが不思議なくらいな大怪我で、危篤。
入江不動さんは、取り乱しはって、毎日病院で北斗さんの枕元で泣いてはるだけどす。パリスはんもおろおろするばっかりで、何もできまへんやろ。実質、一人で何でもしてはった北斗さんが倒れては、都絽伊屋の商売はマヒ状態。
都絽伊屋の倒産
これは赤亀はんにとっては、チャンスどすがな。早速に、陰でパリスはんの債務をあこぎな取立てをしはってたうえに、都絽伊屋の倉庫のある広い敷地を、差押えして、大きな回転木馬を据えてしまいはったんどす。へえ、綺麗な木馬がぎょうさんついた、移動遊園地なんかにあるメリーゴーランド、あれどす。赤亀さんはここで仮設遊園地はじめはったんどす。
もうなすすべもない不動さんは、とうとう都絽伊屋を倒産させて、商売をやめてしもうたという次第どす。
え? その後どすか? 目根良さんの奥さん、結局パリスはんと別れて、旦那さんとより戻しはったんどすえ。むしろ赤亀さんとこの奥さんが不倫しはって、別れたらしおすえ。この人、目根良さんの奥さんとは姉妹なんどす。
事故した秋れう介さんは、御前の力かどうか、今は保釈で出て、前の通り、工務店やってはります。
北斗さんはまだ入院してはって、リハビリ中。不動さんはめっきり老け込んで気の毒どすな。せやけど、秘書の藍野泰雄さんが、関東のローマンピースいう同族会社にいって、なんとか都絽伊屋の再興を考えてはるみたいどす。
パリスはんどすか? それが、反省して、頭まるめて、お寺に入りはったんどす。びっくりしますやろ?
都絽伊屋はんの話は、まあ、こんなとこどすやろか。(F)
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